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各地方自治体が任命する隊員が、都市地域から人口減少や高齢化等の進行が著しい地域に移住して、最長3年間の地域おこし活動を行いながら、その地域への移住・定住することを図る総務省の取り組みである「地域おこし協力隊」。2020年から地域おこし協力隊として安芸津町に定住し、活動している村上由貴さんに、活動の中から見えてきた安芸津の人と、土地性についてお話を伺った。
まちと生きるということ。
村上由貴さんインタビュー
暮らしの担い手として関わり、
安芸津の地域おこし協力隊として
外部や若手の視点から個々の能力によって、行政では行うことのできない柔軟な地域おこし策を行う地域おこし協力隊。村上さんはどのような活動を安芸津で行い、どのような視点からまちに関わってきたのだろうか。安芸津のある東広島市の地域おこし協力隊に要請される業態は、フリーミッション型だ。フリーミッション型とは、町から遂行する課題が定められているミッション型とは違い、課題の設定を自ら行い、自由に活動に取り組む、0から1を作り出す自由度の高いタイプの仕事である。より能力を活かした地域活性を図ることが可能だ。村上さんの仕事内容は、「安芸津マーケット」という、地元の主婦が主催しているマルシェや安芸津のお祭りのお手伝い、福祉系のイベントのスタッフ補佐や、子どもたちと一緒に街を歩いて散策マップを作るなど、多岐に渡るという。その業務の傍ら、前職のメディアに関わる仕事のノウハウを活かし、地域の魅力を村上さんの視点からマップに落とし込んだ『安芸津満喫探訪MAP』を制作し、大きな反響を呼んでいる。一軒ずつ実際に足を運んで得られた情報と、感情がのった丁寧な線で描かれたイラストが魅力だ。
「取材先のみなさん、私のことを不審者扱いしないんですね。普通取材のお電話かけたら、大抵まず切られるんですよ、地方の小さいお店とか。そういうのたくさん経験してきたので。特に小さいお店はメディアとか警戒されるんですよね。でも安芸津は断られるってのが一切なくて。」
取材のお願いを二つ返事で応諾してくださることに驚いたという村上さん。会社に属していると、メジャーな部分を中心に伝える仕事が多くなるが、地域おこし協力隊としてならば、実際足を運ぶ中で、よりおもしろいと心が動いた先へ時間を割くことができる。寛容な人が多いの安芸津だからこそ、自己に近い部分への追求も可能となったのかもしれない。
「少なからず活動の主軸として、私自身が暮らし手になるっていうのはとても大事なことだとは思っていて。なので基本半分外、半分中っていう視点で観光していました。」
村上さんの視点は、主観と客観、内部と外部とが交錯し、作用し合っている。
インタビュー中の村上さん(右)と、トモシビファーム代表の新川さん(左)
終始穏やかな空気に包まれていた。
出会いの波
好きな景色に身を置きたかったという村上さん。前職で観光という多種多様な商材を扱う中で、地元を好きだと実感する機会に多く出会す。そして伝える側のみではなく、自らもプレイヤーとして広島で活躍できる人物、取材してもらえるようなポジションで事を起こしていけるような人物を目指し、いずれ広島へ帰ることを前提に上京する。しかし、仕事がひと段落した頃、コロナ禍に苛まれた。すぐに広島へ戻るのではなく、広島外の場所へ介入した後に戻ってくる予定だったものの、コロナ禍というひとつの波の中で広島へ帰る選択を早めたという。そうして戻るならば村上さんのふるさとである竹原市忠海に近い景観を、と考えていた村上さんと、沿岸部で地域おこし協力隊の募集をしていた安芸津が合致し、生活が始まっていった。
「安芸津で過ごした時間は良いでしかないんですけど。まず良かったのは、ぐっと入り込んだ情報伝達ができたこと。今までできなかった角度から情報に触れてものづくりができたのはとても良いことでした。あとは人かな。たまたま本当にいい人たちと出会えてラッキーだったな。」
村上さんは、2023年8月で安芸津での地域おこし協力隊の任務が満了する。楽しい3年間だったと話す姿は、すっきりとしていて心地が良く、心が洗われるようだった。
「なるようになる」まち
安芸津に3年間住んでみた体感から、安芸津はちゃんとまちとして成り立たれるものがあるまちだ、と話す村上さん。安芸津には、必要な施設、ドラッグストアやスーパーがあり、職人さんもいれば、材木屋さんや新川さんのような土木の会社もある。小さなまちは、大抵の場合何かあると近隣のまちから業者を引っ張ってくるしかないが、安芸津はまちの中に職人さんがいるため、まちのなかでお金を回すことができる。だからこそ、なにかをやろうと思い立った暁に助けてくれたり、一緒に動いてくれるフットワークが軽い大人がたくさんいるのだという。
「安芸津は、なるようになります。でも、なるようになるときに、お互いが影響し合える環境がそこにあるといいなってことは思ってます。ゆるく繋がれる関係性というか、何からあったときに声が掛け合える存在っていうか。それだけがあればいいなって。あとは個々がやりたければやるって感じでよし!やれなかったらやれない、って叫ぶし、そうしたら手伝える人が手伝うし、みたいな感じでいいと思います。」
安芸津には人の繋がりがあるため、やる気次第でなんでもできると話す村上さん。安芸津は何かをやりたい人にはうってつけの場所なのかもしれない。自ら道を切り開いていくための土俵が出来上がっており、人を待つのみの環境が安芸津にはある。
目的もなく訪れられる場所
おすすめの場所を訊ねると、「風陣窯」を挙げられた。
「風陣窯は、行ったら誰かに会うんですよ。それぐらい気軽に、作るわけでも買うわけでもないのに、喋りに行きたいって思わせる何かがある。そういうのって大事な気がします。目的もなく訪れられる場所。」
赴くと誰かに出会うというと喫茶店などの商場をイメージするが、ここ「風陣窯」は陶芸家財満氏の窯元である。しかし、「風陣窯」に行くと誰かに出会うことが多く、かつ誰も帰れと言わない穏やかな時間と開けた景色が広がっているのだという。
あしたに、
安芸津と
村上さんは地域おこし協力隊の任期が満了した後も安芸津に在住しながら、活動をしていく。引っ越す理由が見当たらないのだという。そしていつか風陣窯のような場所を書店として構えたいと話す。
「風陣窯じゃないですけど、来て話して茶飲んで帰ればいいじゃないですか、そういう場所をいつかどこかに。すっごい楽しみなんですよ。でもわかんない、何十年後かもしれないんですけど。私なりの波を待ってます。」
何が波になるかはわからない。しかし、村上さんが安芸津へとたどり着いた時のように、必ず波は訪れるはずだ。今度は安芸津のまちから、新たな波を待ち続けていく。
2023年8月6日
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