
心で感じるありのままの感情を、筆を通じて自由に表現する心書。心書家、開運美文字アドバイザー、筆跡診断士の松田ゆみこ(笑ものやゆめこ)さんに、心書という表現の出会いの根底にあった人生の選択と、小さな笑いから生まれる幸せによる、まちへの関わり方について、お話をうかがった。
松田ゆみこ(笑ものやゆめこ)さんインタビュー
喜びを分かち合って生きていくということ。
ありのままの感情を書き、

一般的なお習字は、とめ・はね・はらいに気をつけ、お手本どおりに書くのが良いとされているが、心書は自分の心を率直に表現する書である。幼少期から書道に触れてきた松田さんは、当時「きちんと」書くことに抵抗感があったと話す。
「字はきちんと書くのが良し、と言われて育ってきたので、私もきちんと書こうとしていました。でも楽しくなかったんです。ですが大人になったある日、年賀状を思い切って、自分の思うように書いてみたんです。そうしたら、その年賀状を出した友達から「今年の年賀状すごい」と連絡があって。その時、自分を表現するのって良いんじゃないかな、自由ってやっぱりすごいんだって感じたんです。」
ご友人の一言から松田さんの字に対する感覚が変わってきたという。字が、とめ・はね・はらいという理解から表現へと変化する、内面を感性的形象として客観化された瞬間であった。


松田さんの活動拠点として多くの書が展示されているこの建物は、かつては安芸津の人々の生活を支えるスーパーだった。特に旬の食材を取り入れた完全手作りの配食サービスは、高齢化の進むこのまちにはなくてはならない存在だったという。しかしその反面、ひかりは影によって輪郭が現れることと同様に、商売を切り盛りする背景には松田さんの体調と生活の犠牲となっていた。
「必死にお店を守らないといけないという一心で、体調を崩しながら白い顔をして働いていました。でもある時パートで来てくれていた友達と、ぼーっと海を見ている時にその友達から「犠牲になるのは家族じゃけえね。あんたの命はどうなるの。急に亡くなったお母さんのように、あんたも死ぬのか」って言われて。その時はじめて店をたたむという選択肢が生まれて。からだをね、みんな大事にせんといけん。私だけじゃなくて。家族って、一人だけが欠けても大変になるじゃないですか。だから、何ヶ月も話し合って、お店をやめよう、って。」

断腸の思いでお店をたたむという選択をとっても、かつてこの場所に確かに存在していた精神は松田さんの心書という表現によって引き継がれていく。当時からお客さんに心配りのメッセージを書き添えて届け、多くの喜びを紡いでいた。この表現が心書であることを知った松田さんは、心書を本格的に学び始め、インストラクターの資格を取得した。
「心書家としてどう展開していきたいかな、自分は何を望んでいるのかなって考えたら、書いたものを誰かが手にして、集まって一緒に書いたりして、一緒に喜びを分かち合いたい。そして地域が元気になるような活動をしたいなって思って。」
ありのままの感情を書くことで、誰かを照らすひかりになること。つくり出したもので誰かの生活に関与していくことは、食で生活に彩りを添えていたかつての松田さんの生業に通ずる部分をお見受けできる。
ひとつひとつの選択に愛を持っている松田さんの、みずみずしい筆跡にわたしたちはやすらぐことができるだろう。
「自分が思ったものを表現して、それを見た誰かにクスッと笑ってもらったり、その方の勇気になったり、何か一歩を踏み出す言葉になれたらなという想いです。」
