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株式会社 今田酒造本店
今田美穂さんインタビュー

接点をもたらすために。
日本酒から他者と世界との
低温で醸しあげることでキメの細かい吟醸酒をうみだす軟水醸造法を今もなお受け継ぐ「富久長」をつくり続けている株式会社今田酒造本店。日本酒のおいしさを知ってもらうことで後世に引き継ぐ使命について、代表取締役・杜氏の今田美穂さんにお話を伺った。
伝統を色濃く継ぐ「富久長」
日本酒とリキュールの製造をしている今田酒造。1847年に安芸津町三津に生まれ、軟水醸造法を発明した三浦仙三郎の存在が今田酒造の全ての始まりであった。それまで酒造りに不向きとされてきた軟水の発酵力の弱さを逆手にとり、低温で醸しあげることでキメの細かい吟醸酒をうみだす軟水醸造法が1898年に確立する。今田酒造ではこの吟醸造りの伝統を色濃く継ぎ、「富久長」を醸している。
「日本酒の歴史の中も、軟水蒸留法を確立した職人の街である豊かで文化的で、伝統がある安芸津の地で日本酒を造っているのは他とはちがう良いところだと思います。」
酒造りの良いところについて、そう話す今田さん。今では当たり前のようになった吟醸造りを、生まれた地である安芸津町で引き継ぎ、改良を続け、世に「富久長」を届け続ける今田酒造。酒造りをまちで行うことは、まちの存続にもつながるにちがいない。とてつもない労力と丹念を感じさせる。

伝統を守る意味
日本酒の面白さのメインコンテンツは職人の技術の面白さだ。品種や由来などの原材料によって最終的な味が決まるワインに対し、日本酒はお米を使用しているので、ぶどうのようにそのままでは発酵ははじまらない。そこで原材料と味をつなぐのが技術であり人間なのだという。杜氏のつくる麹がまず米の澱粉を糖分にすることで、はじめて発酵がはじまる。だから、日本酒には年によって当たり外れがない。どのようにつくっていくかという、過程が大事になってくるため、人や土地柄に注目される。
「その昔の人たちが積み重ねたことを自分達も引き継いで、未来のことを考えて、未来に繋がなければ、という使命を持っています。」
日本酒を造り、その伝統を守り続けるということは、人と土地を守るということなのかもしれない。今田酒造は、安芸津のまちと人の歴史を慈しみながら守り続けている。


他者と世界との接点を繋ぐ
2020年、英国BBCが選ぶ世界に影響を与えた『100人の女性』に日本人として唯一選出された今田さん。その背景に、世界で日本食が注目されるようになったことがあるという。その土地の食には、その土地のお酒という世界共通の認識がある。日本食が注目されることで、必然的に日本酒も興味を持ってもらえるようになった。前述した通り、日本酒には人間との密接な関わりが必然である。だからこそ今田さんは今、日本酒を正しく認識してもらうために世界各地で日本酒の啓蒙活動を行い続けている。美味しく飲むためには、やはり知識は必要なのだという。歴史を学ぶことは、個人のリアリティに複数の他者が混じり合ったリアリティが介入していくことでもある。そうすることで、日本酒から他者と、世界との接点を持つことが可能となっていくだろう。


